spirits


「フクロウおじさん、いらっしゃーい」
甲高い子供の声に迎えられて、おじさんねぇとフクロウは内心苦笑しながら答える。
「ようリリ、またでかくなったんじゃないか」
少し屈んで、子供の頭をぽんと叩くと、アマミクから預かった菓子を子供の手に落とす。
「アイからだ。大事に食えよ」
「うわぁ、ありがとう!」
嬉しげに子供は、菓子の入った包みを大事そうに抱えると振り返り、奥から出てきた母親に差し出す。
「母さん、これ!アイおばさんが」
「フクロウ、いらっしゃい。いつも悪いわね」
杖を付きながら出てきたミホは、盲目いた目をこちらに向け、軽く会釈をする。
「なぁに、こっちに用事があったからな。ついでだよ」
函館の幼なじみグループだったミホは、フクロウやカラスが竜騎兵に、アイがアマミクとして行政の仕事をしているのに対して、一人一般市民として、子供を産み育てていた。
時空異変の時に、両目の視力を失ったが、そのハンデにも負けず、懸命に子を育てている彼女を、アイは随分と気に掛けており、なかなか自分では上層に出向けないので、こうしてフクロウに様子を見てきて貰っているのだ。
フクロウとしても、ミホの夫は竜騎兵として数年前に亡くなっていたので、弔問の意味合いもあった。
自分たちにできる範囲での生活物質を、時折届けるのが、彼らにできるミホへの支援だった。



つかの間昔話などをして、フクロウが暇を告げ表にでると、彼女の娘のリリがフクロウを追いかけてきた。
「ねぇフクロウおじさん」
「なんだ?」
「あのね…」
なにやら後ろ手に隠し、もじもじしている。
「何を持ってるんだ?」
「これ…」
彼女がおずおずと差し出したものを見て、フクロウは顔を顰めた。
「お前…どうしたんだこれ?」
リリが手に持っていたのは、酒瓶だった。
今のラクリマに酒を造る処など無い。
ということは、これは地上世界から持ち帰ったものだ。
「まさか地上に…」
「ち、違うよ!この間、東の奥で崖崩れがあって…それで」
それならフクロウも知っている。
先日の戦闘の折り、遊撃艇を地上に降ろしてしまった。
何とか倒しはしたが、地下は大規模な崖崩れが起き、その収拾が大変だったのだ。
「あんなとこに、近づいたらダメだろう」
ため息をつきながら、少し厳しい顔をしてみせる。
「ごめんなさい…」
好奇心が強くて無鉄砲なところは、母親そっくりだ。
「それで、これは拾ったのか?」
「うん…他にも有ったけど、みんな割れちゃってて、それだけ大丈夫だったの。母さんに言ったら、フクロウにあげなさいって」
「…」
フクロウは、複雑な気持ちになる。
ミホの心遣いは有りがたいが、現在ラクリマでは、地上の物品は、正規の回収班以外が持ち帰ることは禁止されている。
そもそも、一般市民は地上に出ることができないのだから、禁止も何もない。
もっとも竜騎兵達は、戦闘後にちょっとした物品を持ち帰ることがあったが、命がけの戦闘の報酬としては、そのくらい安いものだろうと大目に見られていた。
酒瓶の一本くらい、上に届けてもどうしようもないが、フクロウたち“鳥”は酒精の摂取を禁止されていた。
酔っぱらった場合に、身体に及ぼす影響が未知数だからというのが理由だった。
どのみち、現在のラクリマでは、正規に酒を入手する方法など無いのだから、試したことも無かったのだ。



自室に帰ったフクロウは、酒瓶を手にしばし考えを巡らせていたが、好奇心に負け栓に指をかけた。
酒は弱い方では無かったし、少しくらいで酔ったりしない自信はあった。
少し試したら、あとは一般の竜騎兵達に差入れにやろうと考える。
「ちょっとだけ…な」
瓶の口から、透明な液体がコップに注がれる。
久し振りに嗅ぐアルコールの匂いに、目を細め、コップの液体を口に運ぶ。
一口口に含み、飲み込む。
あまり味が分からないのは、久し振りだからか、身体が変わったせいか。
ただ、喉を焼くアルコールの熱さは確かで、酒の味だと実感する。
「酒ってこんな味だったっけ」
更にコップ半分ほど煽ったところで、コップを置き寝台に転がった。
「うわ…まわる」
体中の細胞が、脈打っているように感じ、思考が鈍っていく。
この程度で…と思うが、今の自分の身体は昔の自分とはまったく違っているのだから、当たり前なのかも知れない。
(これはまずいかも…)
確かにこんな状態が酷くなれば、デコヒーレンスを起こしかねない。
しばらく寝ていれば醒めるはずだと、あきらめて横になる。
なんだか、初めて酒を飲んだ時のことを思い出す。
兄が、こっそりとビールを飲んでいるのを飲ませて貰ったのは、まだ小学生だったか。
旨いとは思わなかったが、こんなもの別に平気じゃんと、一気に煽ってひっくり返った。
中学の時、帰省した親友とこっそりと酒盛りをしたりした。
実は初めて飲むのだというユウは、缶ビールを半分も空けないうちに真っ赤になりへべれけに酔っぱらったものだった。
ホントあいつは弱いよなぁと、一人笑みを浮かべていると
「何やってるんだ」
と声を掛けられて驚いた。
いつの間にか、カラスが寝台の横に立って、こちらを見下ろしている。
彼の来訪に気が付かないほど、自分の感覚が鈍っていたのかと少々驚くが、未だ頭の芯は酩酊状態で、起きあがることは億劫だった。
「ようカラス」
寝転がったまま、にやにやと笑みを浮かべるフクロウを見て、カラスは不審げに眉根を寄せる。
「どうしたんだ」
言いながら、寝台の上にあるテーブルに目をやり、酒瓶とコップを見とがめるとコップを持ち上げた。
「何飲んでる」
カラスは、瞬時に酒だとは分からなかったようで、コップに口を当て、一口飲みこむと同時にむせて咳き込んだ。
「ゲホッ」
その様子を見て、フクロウの酩酊した頭が正気に戻った。
「馬鹿!飲むな!」
慌てて身を起こし、カラスの手からコップをむしり取る。
だが、時すでに遅く、カラスはそのままぐんにゃりとフクロウの胸に倒れ込んだ。
「カラス!」
胸元に倒れ込んだカラスが顔を上げると、頬は紅く染まり目は潤んでいる。
「フクロウ…熱い」
そのまま、胸元に額を擦りつけて、熱い息を漏らす。
「カラス…」
たった一口で、とあきれながら、昔からこいつは酒が弱かったと思い起こす。
だが、酔っぱらってるだけにしては様子が変だ。
「フクロウ…」
押しつけてくる股間の、熱を孕んだ硬さにはっとなる。
(こいつ…盛ってんのか?)
どうやら、酒精の熱が体の中で別の熱にすり替わったらしい。
抱きついたままスーツを消し、自らの股間をフクロウに押しつけ、摺り合わせるように動き、首を伸ばし、唇を求めてくる。
「ん…」
フクロウも、そんなカラスに煽られ、内部の熱が欲情に転化していく。
「カラス…」
自らのスーツを消すと、カラスの動きにあわせ、腰を揺らし足を絡めあう。
「あ…んぅ」
深く貪った唇を離すと、指をカラスの口腔に差入れ、舐めさせる。
カラスは、夢中でフクロウの指にしゃぶりつき、たっぷりと唾液を絡めていく。
「…はむ…ふ…ん」
唾液で濡れた指を口から抜き取ると、フクロウは腕を伸ばし、上に乗ったカラスの双丘を鷲掴み広げ、奥に濡れた指を差し入れた。
「あぁ!」
カラスの身体はビクリと跳ね、フクロウの首にしがみつく。
抜き差しする指の動きにあわせ、腰を揺らし、更に激しくフクロウの股間に自らのものを押しつけてくる。
すでに、お互いの下腹は先走りで濡れ、擦れあう性器は、痛いほど張りつめていた。
「はぁ…ぁ…ぁ」
カラスの内壁は柔らかく解れ、フクロウの指を奥へと誘うように蠢く。
「フクロ…あ…も…」
カラスは、懇願するようにフクロウに濡れた瞳を向け、片手を下肢に伸ばす。
堅く屹立したフクロウの性器に、白い指を絡めると、上体を起こして腰を浮かせた。
フクロウが指を窄まりから引き抜くと、少し眉を潜め切なげに喘ぎ、そのまま、フクロウの性器を奥にあてがい、腰を沈めた。
「あぁぁぁ!」
一気に根元まで咥えこんだカラスは、背を仰け反らし、細かく痙攣している。
「あ…は……ぅ」
フクロウが手を腰に回し支えてやると、その腕を掴み、ゆっくり上下に動き出す。
接合部から濡音が響き、揺れる腰の動きにあわせ、カラスの性器が雫を散らしていく。
「んぁ…い…ぃ…」
普段では考えられないほど、淫らなカラスの痴態に、フクロウは早々に限界を迎えそうだったが、酒精のせいか、なかなか達するところまで行き着けなかった。
あっという間に熱は高まり、快感は強く感じるのに、後少しで達せられない感覚。
カラスもそうなのか、段々と動きを早めながら、辛そうに眉根を寄せる。
「あ…は…ぁ……もぉ…」
過ぎるほどの快感を感じながら、達することのできないもどかしさに、カラスは腰に添えたフクロウの手を握り、自らの性器に導き握らせると、その上から自身を握り梳き立てた。
「フクロ…もっと…こすって…」
信じられない懇願の言葉を紡ぐ唇の端から、唾液が一筋流れていく。
フクロウは堪らなくなり、半身を起こした。
「ひぁ!」
バランスを失って、後に傾いだカラスの身体を抱き留めると、尻に手をかけ思い切り揺さぶり始めた。
「あぁ…ぁ…ひ…」
カラスは、夢中でフクロウの首に齧り付き、律動に身を任せ、仰け反る。
互いの腹に挟まれた己の性器が、動きにあわせ擦られ、新たな快感を生む。
「いぃ…ぃ…あ…ぁ」
身体の奥から、背骨を駆け上がる快感に、脳が痺れる。
「カラス…」
フクロウは、揺さぶられながら仰け反った、カラスの白い胸に顔を寄せると、朱い突起に歯を立てた。
「あーーーー!」
一際高く悲鳴を上げると、カラスはがくがくと痙攣しながら、白濁する精を放った。
フクロウも、己の滾りを、すべてカラスの中に注ぎ、そのまま脱力した。
しばし放心していると、フクロウは、先程までの酩酊感が消えているのに気が付いた。
どうやら、達したと同時に酒精も抜けたらしい。
「やれやれ」
腕の中で、ぐったりしてしまったカラスを抱え、身を離そうとした途端、ひどく不機嫌そうな声音が聞こえてきた。
「…フクロウ…これはどういうことだ」
見ると、カラスが腕に抱かれたまま、剣呑な目をこちらに向けている。
「どういうって…こういうことだよ」
フクロウは、困惑しながらも、幾分揶揄するように返した。
「お前から乗っかってきたんじゃないか」
「嘘をつくな!」
カラスは真っ赤になって否定する。
その様子から、どうも酔ってる間の記憶が無いようだなと、フクロウは推察する。
自分と同じく、達して酒精が抜けたのだろう。
「…いいから早く…」
「え?」
カラスは赤い顔を伏せ、震えている。
本人は覚えていないようだが、あれだけ激しい情事の後だ。
身体がうまく動かせず、この体勢から自力で逃げ出せないのだった。
なにせ、胡座をかいたフクロウに向かい合わせに跨り、その上未だ体内にはフクロウを納めたままだ。
「早く…抜いてくれ」
消え入りそうな声で懇願し、自分の肩口に顔を伏せ震えるカラスの様に、フクロウは先程の熱が戻ってくるのを感じる。
「つれないこと言うなよ」
顔を伏せた、カラスのこめかみに口づけると、フクロウはゆっくりとカラスの身体に腕を回す。
「覚えてないなら、もう一回しようぜ」
「ちょっ!」
カラスは、体内で再び張りつめだしたフクロウ自身に、はっと顔を上げ、抗議の声を上げかけるが遅かった。
「やめ…ぁ!」
揺すぶられた身体は、あっという間に先程の熱を取り戻し、カラスの意識を快楽に浸す。
「ひぁ…ぁ…!」
フクロウは心の中で、酒の残りをやるのはやめにしようと思いながら、行為に没頭していった。



後日、カラスはフクロウが持っていた酒瓶を見つけ出し、破壊した。
フクロウの密かな愉しみは、こうして露と消えたのだった。


HARUシティで無料配布したSSです。お酒ネタは、誰もが考えることだと思いますが、もっともベタなネタに落ち着きました(^^;