recreation travel


カラスは、風呂場の脱衣カゴを前に、途方に暮れていた。
ここは、とある温泉地のホテルで、今は慰安旅行の最中だ。
今時、温泉ホテルに全社で慰安旅行というのもアナクロな話だが、今年は社の創立何十周年だとかで、久しく無くなっていた行事を復活させたらしい。

だが、やはり来なければ良かった。

再び暗鬱たる気持ちで、脱衣カゴを眺める。
団体行動の苦手なカラスは、慰安旅行などパスするつもりでいた。
だが、彼の恋人のフクロウが、「絶対に来い!」と念押しするので、渋々参加したのだ。
恋人とはいえ、男同士であり、ゲイであることをカミングアウトしているわけでもない(もっとも、カラスは自分がゲイだと思っていないが)フクロウとカラスは、社内では友人同士で通している。
会社の団体旅行など、二人きりになれるわけでもないのだから、行かなくてもいいじゃないかとカラスは思うのだが、基本的にお祭り好きなフクロウは、一緒に行事を楽しみたいのだと言う。
元々、フクロウの方が押しが強い。
半ば強引に押し切られて、来ることを決めたカラスは、やはり

(来なければ良かった)

と、何度目かのため息をついた。
なぜ、こうも彼は暗い気持ちになっているのかといえば、それは先ほど脱いだはずの、彼の下着が見あたらないからだった。
ホテルに到着して浴衣に着替え、大浴場に足を運び温泉に浸かり、それなりに、こういうのもいいかな等と思っていた矢先のハプニングに、必要以上に気持ちが落ち込む。
男の下着を好きこのんで盗む輩など、そうは居ないだろうから、どこかに置き間違えたのかと、あたりを探すが、見あたらない。
先にフロに来ていたフクロウは、すでに上がって、外で煙草を吸っている。
まさか彼が…と思うが、小学生ではあるまいし、いくらなんでもあり得ないと、その考えを打ち消す。
一緒に入っていた他の人間は、すでに身支度を済ませ、出て行ってしまい、カラスは一人脱衣場に残されてしまっていた。

カラスはとりあえず、浴衣と丹前を身につけ浴場から出る。
フロの前に、自販機を置いたスペースが有り、フクロウはそこで煙草を燻らしていた。
「遅かったな。早くいかねーと宴会はじまるぞ」
人好きのする笑顔を浮かべて、フクロウはカラスに手を伸ばす。
「お、俺、ちょっと部屋に戻ってくる」
さすがに、下着を無くしたとは言えず、カラスは踵を返そうとする。
「何言ってんだ。時間ないって」
フクロウは、カラスの手首を掴むと、強引に宴会場に引きずっていく。
「フ、フクロウ!」
カラスは、慌てて手首を振り払おうとするが、しっかりと握られた手首は、振りほどくことができず、諦めてフクロウに従った。
(仕方ない。早めに切り上げて部屋に戻ろう)
そう考えて、カラスはフクロウと共に宴会場に向かった。




フクロウは、笑いが込み上げそうになるのを必死で押さえ込んでいた。
カラスの下着を隠したのは、もちろん自分だ。
ホテルに着いて、着替えてフロに入ったのはいいが、カラスは何を手間取ったのか、随分と遅れて湯にやってきた。
一緒に宴会に行こうと思っていたフクロウは、カラスを待っていたのだが、さすがに待ちくたびれて、先に上がって待っていると告げ、湯から出た。
脱衣場で、カラスの服の入ったカゴを見つけ、相変わらずの頓着しなさに苦笑する。
脱ぎ捨てた、浴衣も丹前もぐしゃぐしゃにカゴに入れてあり、一番上に、下着が乗せられている。
見覚えのある、その下着を見ているうちに、フクロウは良からぬ考えを思いついた。
(下着を隠したら、あいつどんな顔をするかな)
大の大人のすることではないとは判っていても、そうした時のカラスの顔を想像すると、堪らなくなり、周りの人間の目を盗み、下着を袂に入れた。
湯から上がってきたカラスに、煙草を吸ってると告げ、表に出た。
下着が無いことに、気がついた瞬間の顔も見たかったが、さすがにそれを見ていたら、吹き出しそうで諦めた。
しばらくして、浴場の外に出てきたカラスの顔は、困り果てて、今にも泣き出しそうで、あまりに予想通りの表情に、笑いを押さえ込むのに苦労しながら、素知らぬ風に声をかけた。
部屋に戻ろうとするのを、もちろん許さず、強引に宴会場に連れて行く。

広い宴会場は、大分人で埋まってきており、適当な場所を探す。
隣に座ることも考えたが、宴会場では大したこともできないことだしと、向かい側に座ることにした。
(ここなら、じっくりあいつの表情が楽しめるしな)
我ながら、オヤジ臭い発想だとは思ったが、羞恥に駆られるカラスの顔は、実にそそられるのだ。
向かい側でカラスは、キチンと正座して座った。
さすがに下着無しで、胡座はかけないだろう。
判っていて、フクロウは意地悪な問いかけをする。
「なに畏まってんだよ。足崩せよ」
カラスはギクリとして、頬に朱を走らせる。
「べ…別にいいじゃないか。そんなの好きずきだろ」
「ふーん、ま、そうだけどよ」
尚も何か言おうかと思ったフクロウだが、宴会の幹事の声に口を噤む。
「えー、みなさん、もう席に着きましたね」
マイクを握った、幹事の挨拶と社長の挨拶が続き、お定まりの乾杯の音頭が響く。
「かんぱーい!」
広い宴会場いっぱいの人間が一斉に乾杯する。
フクロウも笑いながら、向かいのカラスの杯に、自分の杯を軽くぶつける。
カラスは、やや引きつった笑いを浮かべ、一口飲むと、食事の膳に箸を伸ばした。
フクロウは杯を一気に飲み干すと、手酌でビールを注ぎ、カラスに瓶の口を向ける。
「ほら、さっさと空けろよ」
「え、いや、今日はやめとく」
もともとカラスは酒が弱い。
普段からあまり飲むことがないが、今日は尚更だろう。
万が一、酩酊して浴衣の裾がめくれでもしたらと、不安この上ないのだ。
そんなカラスの考えなど、手に取るようにわかる。
今更、酔わせてどうこうしようというのはないが、カラスを困らせるというか、困った顔のカラスを見るのは、かなり楽しい。
二人の関係がはじまった頃は、自分からの一方的なセクハラ行為であり、いつもカラスは困った顔をしていた。
いまは、対等な恋愛関係になったとはいえ、時折、そんな顔をさせたくなる。
困った顔にそそられるというのは、自分にサド気があるからなのか、カラスにマゾ気があるからなのか。
「なんだよ。俺の酌じゃ不服か?」
「そ、そうじゃないよ」
明らかに狼狽するカラスは、それでも不肖不精杯を空け、フクロウの酌を受ける。
「ほら、ぐーっといけよ」
「無理だって。お前とは違うんだから」
ビール一杯で、ほんのりと朱く染まる顔が艶っぽい。
白い肌が、朱に染まる様は、情事の彼を思い出させて、フクロウは己の股間に熱が集まるのを感じ、慌てて目を反らす。
(ったく、色っぽいのも時と場合によりけりだよな)
さすがに、自分も浴衣姿なのだから、そんな状態になるのは避けたい。
「課長飲んでますか?」
早速部下が、酌にやってきたので、とりあえずはそちらに気を向けることにする。
カラスを横目でチラリと見ると、大人しく膳の料理を食べているが、どうにも落ち着かない風で、居心地悪そうにしているのが、可愛い。
そうして、酌にくる人間の相手をしながら、カラスの様子をうかがっているうちに、食事の膳も終わり近くなり、場の雰囲気も砕けてきた。
頃合いと見たのか、カラスがそっと立ち上がり会場を抜け出す。
フクロウは、すかさず立ち上がり後を追った。




「カラス、どうしたんだ」
エレベーターホールで後から声をかけられ、カラスはギクリとする。
「フ、フクロウ」
カラスは狼狽して振りかえる。
「ちょっと部屋に戻ろうと思って…」
「なんだ、あれくらいで酔ったのか?」
「う…うん」
いくら弱いカラスでも、あの程度で酔っぱらうわけはない。
判っているがそうは言わず、エレベーターに乗り込みながら、フクロウは肩を抱きよせ囁く。
「じゃあ、俺が介抱してやるよ」
カラスは、更に慌てて、フクロウを引きはがす。
「だ、大丈夫だよ!一人で!」
「何言ってるんだ、そんなフラついてるくせに」
「これは…」
慣れない正座で足が痺れたのだが、そうは言えず、カラスは口籠もる。
「ほら、俺の部屋に来いよ」
強引に、フクロウの部屋の階でエレベーターから下ろされる。
「フ、フクロウ!」
カラスは、いっそ本当の事を言ってしまおうかとも考えるが、今更それを言えば、ますます帰してくれないことは、想像がつく。
どうしたらいいのかわからないままに、結局フクロウの部屋に連れてこられてしまった。
フクロウが扉に鍵をかけるのを見て、ぎょっとする。
「フクロウ、ほ、他の人たちは…」
「気にすんな。戻ってこないよう小遣いを渡してある」
片眉を上げながら、口の端をあげてにやりと笑う。
フクロウの思惑がはっきり判って、カラスは血の気が下がる。
彼は、ここで自分を抱くつもりなのだ。
もちろん、カラスも今更フクロウとの情事を拒むつもりなど毛頭無いが、時と場合によりけりだ。
こんな団体旅行の最中に、部屋に鍵をかけたからと言って、事に及ぶ気になど、カラスはなれなかった。
なのに、自分は今下着を付けておらず、このまま事に及べば、そのことを揶揄されることはあきらかで、カラスは真っ赤になって自分の身体を抱きしめた。
「だ…だめだ。俺…」
なんと言っていいかわからず、かぶりを振る。
「カラス」
フクロウは、ゆっくりとカラスの身体に手を伸ばす。
「!」
カラスは踵を返して、奥へと逃げる。
手前が洋室で、奥が和室のいかにも観ホテルらしいつくりの部屋だ。
奥の和室には、すでに布団が敷かれており、慌てたカラスはその縁に蹴躓き、転びそうになる。
「おっと」
前のめりになった身体は、後からフクロウに抱き留められ、そのまま抱きしめられる。
「あ…」
抱きしめながら、首筋に口づけられ、カラスの身体がビクリと跳ねる。
片手を合わせから差し入れ、胸の尖りを摘み上げ、もう片方の手が下肢に伸びる。
「あ…やめ…」
カラスは身を捩るが、フクロウはそのまま裾を割り、顕わになった白い足を撫で上げる。
「…っ」
撫で上げた手が、そのまま上へと差し入れられる。
「なんだ、下着付けてないじゃないか。お前もその気だったんだろ?」
耳朶を甘噛みしながら、フクロウに囁かれ、カラスは羞恥に震える。
「ち…違う…これは」
そんな風に思われることだけは嫌で、必死に首を振り言いつのる。
「フロで…下着が無くなって…あ!」
フクロウはカラスの性器を握り込み、梳き立て、胸を嬲っていた手をカラスの顎にかけると、後を向かせた。
「フクロ…っ」
困惑と羞恥がないまぜになった顔は、耳まで赤く染まり、瞳が潤んでいる。
「カラス…」
(この顔が見たかったんだよ)
フクロウは満足げな笑みを浮かべると、高ぶった己の股間を、カラスの双丘に押しつけるようにしながら、口づける。
「ん…ぁ」
口腔内を存分に犯し、舌を絡め合う。
カラスの性器からは、透明な雫が溢れ、フクロウの手を濡らす。
カラスは膝に力が入らなくなり、足ががくがくと揺れる。
フクロウは、後からゆっくりとカラスを俯せに布団に横たえ、丹前を脱がせると、上向かせた。
布団に仰臥したカラスは、力が入らない様子で息を荒げ、しどけなく横たわっている。
浴衣の胸ははだけ、白い胸が上下しているのが見える。
フクロウは、寝かせたせいで閉じた、カラスの浴衣の裾を再び広げ、頭を擡げた性器を掴み口に含んだ。
「あ…ぁ!」
カラスは仰け反り、フクロウの頭に手を伸ばす。
フクロウは口腔内で、たっぷりと性器を味わいながら刺激を与え、口から出した。
そのままカラスの腰を抱え上げ、幼児がおむつを替えられるような体勢を取らせる。
その前に、座り込むと、丁度フクロウの鼻先にカラスの窄まりがくる。
「は…ぁ」
カラスが苦しげに息を吐く
「悪りい、ちょっと辛抱してくれ」
そういうと、フクロウはカラスの窄まりに舌を這わせ、手はゆるゆると袋を揉みしだく。
「あ…!」
カラスの身体はビクビクと反応し、濡れた性器が揺れる。
窄まりに舌を浅く差し入れ、唾液を送り込むと、入り口が緩み、内部の秘肉が紅い色を覗かせる。
フクロウは舌を離し、窄まりに指を差し入れてやる。
カラスの内壁は、待ちこがれたように指に絡みつき奥へと誘う。
フクロウは、にやりと笑みを零しながら、指を増やし、窄まりと性器の間を舌で舐めてやる。
「あぁ!あ…ん」
カラスの嬌声があがり、身体が一際跳ね上がる。
羞恥に駆られたせいなのか、いつもより乱れるのが早い。
カラスの性器は今にも弾けんばかりに立ち上がり、内壁はフクロウの指を締め付ける
「フクロ…もう」
カラスが泣き濡れた顔で懇願する。
フクロウも、自身の限界だ。
己の性器を掴みだし、カラスの窄まりにめり込ませる。
「あぁぁ!」
最初から激しく抜き差しを繰り返す。
「あぁ、い…い!フクロウ!」
カラスも、もはや快楽を貪ることしか頭になく、与えられる快感に、素直な反応を返す。
「カラス…」
「い…!」
お互いの身体が跳ね、二人同時に達した。
フクロウの身体が胴震いを繰り返し、カラスの内に精を注ぎ込む。
やがて、力を失い重なり合って崩れ落ちた。




「あぁぁ…ぁ」
何度目の情交か。
カラスはフクロウの腹に跨り、彼の性器を受け入れている。
浴衣の前は大きくはだけ、片方の肩からは、すっかりずり落ちてしまっている。
帯でなんとか合わさっている腰から下は大きく割れ、屹立した性器が丸見えの状態だ。
下から腰を、フクロウが支えてやり、その支えた腕を掴み、カラスは腰を上下させている。
「ふぁ…ぁ」
何度もフクロウの精を飲み込んだ、カラスの窄まりからは、グチャグチャと水音が響き、内部の精が外に伝い出てきている。
濡れそぼったカラスの下肢を見遣り、フクロウは限界近い己の腰を突き上げる。
「!あっ…い!」
背骨を駆け上がる快感に、カラスの身体が大きく仰け反る。
「あぁー!」
ビクビクと互いの身体が痙攣し、何度目かの絶頂を向かえた。

カラスは弛緩した身体を、フクロウの胸につき支え、荒い息をつく。
ぼんやりとした視界に、何か目に入る。
フクロウの袂からはみ出しているあれは…。
未だ酩酊する思考が、だんだんはっきりしてくる。
無くしたはずの下着が、フクロウの袂にあるということは…。
カラスは瞬時に正気に戻り、フクロウを睨み付ける。
「フクロウ!お前!」
「え?なんだ」
フクロウの方は、未だ情事の余韻に浸っている。
カラスは袂から見える、己の下着を掴み、フクロウの鼻先に突きつける。
「これ!お前の袂に入ってたじゃないか!」
「あ?や…」
フクロウも正気に戻ったらしく、バツの悪い笑みを浮かべる。
「お前って…」
カラスは怒りのあまり真っ赤になって、フクロウの襟を掴む。
が、その途端、フクロウが身を起こし、再び組み伏せられてしまう。
「フクロウ!」
カラスは慌てるが、そのまま突き入れられる。
「ごまかすな!…あぁ」
「まぁ、朝になったらゆっくり聞くから…」
フクロウはバツが悪そうな笑みのまま、口づける。
「そ…ん…」
すでに、何度も絶頂を向かえた身体は、あっと言う間に快感に押し流されていく。
「は…ぁフクロ…」
カラスの抗議の声は、夜の帳に消えていった。



えー、セクハラフクカラの浴衣つーか慰安旅行バージョンです。このシリーズは、本にしたあとも、なんとなく後日談とか考えたりしてますが、書くつもりはなくて、五里さんにちょっと話したりしてるだけでした。今回は、Nさんの「浴衣フクカラ」のリクに、じゃあ書いてみようかなーと思って書いてみました(^^;Nさん、こんなんですんません。
そうそう、この話は、半分くらい五里さんのアイディアが入ってます。てか
パンツ隠すってのは五里さんが言い出しっぺですよ(笑)わたしはそんなの考えつきもしませんでした。さすがだよね、五里さん。