third


「カラス…」
遊撃艇を退け、ラクリマ地下に戻ってきた転送室で、フクロウは躊躇いがちにカラスに声をかけた。
「なんだ」
特に何の感情も見せずに、カラスが答える。
「あ…いや、なんでもない」
フクロウは、妙に狼狽えてそう言うと、自室に向かった。




「はぁ」
一人自室の寝台に腰掛け、フクロウはため息を漏らす。
フクロウは、二度カラスを抱いた。
この間と、その前の戦闘の後のことだ。
未だに、その時の気持ちに、整理も説明もつけることができない。
だというのに、身体は、その記憶を反芻し、再びの行為を欲している。
「…なんで…」
フクロウは、俯き、両手で顔を覆う。

カラスの白い身体を組み敷き、自らの猛った雄を、突き入れる。
苦痛に顔を歪ませ、泣き濡れるカラス。
だが、やがてその顔は、喜悦に染まり、フクロウを求めて声を上げる。
行為の最中の、カラスの甘いよがり声を思い出し、フクロウは下半身に疼きを感じた。

その時、来客を告げる音が響く。
「フクロウ。俺だ」
果たして、それは、今もっとも逢いたくて、逢いたくない者の声だった。
「カラス…」
フクロウは、座ったまま扉を開錠し、友を迎え入れた。
カラスは、黙って部屋に入ると、座ったフクロウのすぐ横まで来て立ち止まる。
一度部屋に戻ったのか、カラスはフクロウと同じく、マントを付けず、スーツのみの姿だった。
「カラス…どうした?」
沈黙が怖くて、フクロウは努めてさりげなく、口を開く。
「俺が聞きたい」
カラスが、答える。
「さっき、何か言いかけただろう?」
「…」
カラスは、いつもは鈍いくせに、こういうときだけ、妙に鋭い。
「…」
フクロウは、なんと言っていいのか判らず、カラスを見上げる。
と、思ったより至近距離に彼の顔が有り、ぎょっとする。
カラスは身を折り、フクロウを覗き込むようにこちらを見ている。
「フクロウ?」
少し眉を寄せ、気遣わしげな色の滲む声音で、フクロウを呼ぶ。
なんだか堪らない気持ちになり、フクロウは目を反らす。
「フクロウ」
カラスは尚も、フクロウに身を寄せ、その肩に手をかけた。
「…なんでお前は」
そう無防備なんだ。
後半を舌打ちと共に、心で呟くと、フクロウはカラスの身体を抱きしめた。
「!」
座ったまま、強引にカラスの身体を抱き寄せた為、カラスはフクロウの膝に跨り、正面から向かい合う体勢になる。
その姿勢のまま、強く抱きしめられ、カラスはフクロウの肩口に顔をのせた。
「…」
フクロウは、衝動に任せ抱きしめてしまったことを、半ば後悔しながらも、自分の身体が、待ち望んだ感触に、ざわめき出すのを感じて、腹を括る。
「嫌ならそう言えよ」
低くカラスの耳元に告げる。
「…なにがだ?」
だが、緊張感の無い声で返され、フクロウの気負いは肩すかしをくらい、彼は大きく嘆息する。
「…ったく、判れよ」
少々、あきれと苛立ちの混じった声で言うと、フクロウは、カラスの腰に回した手を、双丘に延ばし、自分に押しつける。
すでに、熱を孕み、堅くなりはじめた己の性器が、まともにカラスの性器にあたる。
「!」
カラスの身体が、一瞬強ばり、緩く下ろされた手が、フクロウの腕を掴む。
「嫌ならそう言え」
再びフクロウが告げる。
カラスは、しばし考えていたようだが、ゆっくりと身を起こし、フクロウの顔を正面から見ると、困惑して言った。
「別に嫌じゃない。…でも、どうしてお前が、そんなことをしたいのかわからない」
「俺にだってわからねーよ」
フクロウは、急に気恥ずかしくなり、憮然として返す。
カラスは、目を見開き、そして破顔した。
「わかんないのにしたいのか、お前」
笑顔で言われて、フクロウはますます羞恥に駆られる。
「悪いかよ」
意固地になって、言い返す。
「いいよ」
「!」
カラスは、笑みを浮かべたまま言う。
「やれよ。お前のしたいようにすればいい」
「カラス…」
フクロウは、一瞬惚けたような顔になった。
「フクロウ?」
頭も惚けてしまったのか、何も考えられなかったが、身体は勝手に動いて、カラスを寝台に押し倒し、口づけた。
「ん…」
カラスの身体に緊張が走る。
フクロウは唇を離し、問いを蒸し返す。
「やっぱ…嫌か?」
今度は、カラスが憮然として答えた。
「そうじゃない」
カラスは目を瞑ると、息を吐き、緊張を緩め、スーツを消した。
フクロウも、自らのスーツを消すと、再び唇を押し当て、口腔内を舌でまさぐる。
「…ぁふ…」
強く舌を絡め取り、深く味わう。
「んん…」
カラスは、眉根を寄せ、鼻から抜けるような声を漏らす。
フクロウは、何度も角度を変えては、深く口腔内を貪り、腰を、強く摺り合わせるように動かした。
「…っ!」
カラスの背に、ぞくりと快感が走り、性器が形を変えていく。
「…カラス」
唇を僅かに離して、フクロウは囁くと、カラスの手を下肢に導き、互いの性器を纏めて握らせ、自らもその上から握り込む。
「あぁ!」
そのまま、強く扱くと、カラスは強い快感に仰け反り、喘ぐ。
喘ぎを飲み込むように、再びフクロウは、カラスの唇を塞ぎ貪る。
「ん…ん!」
飲み下せない唾液が、カラスの唇から零れ落ち、喉元を伝う。
かまわず、フクロウは、更に深く唇を合わせ、性器を擦る手を早める。
「…っ」
快感の波が、己の性器に集まり、やがて限界を向かえた。
「――――――――っ!!」
二人とも同時に精を放つと、脱力して、息を荒げる。
「……」
フクロウは、身を起こすと、カラスの下腹に溜まった、互いの精液を指に掬い取り、力の入らない様子の、カラスの足を押し広げた。
「…悪りぃ。あれで済ませられたらと思ったけど、やっぱ駄目だ」
カラスの耳元でそう囁くと、指をさらけ出された窄まりへ伸ばす。
やさしく、縁を撫で濡らし、慎重に指を差し入れた。
「!」
カラスの身体が、ピクリと反応し、眉根が寄せられる。
「痛いか?」
フクロウは、指を抜き、カラスを伺う。
「…大丈夫だ」
カラスは、息を吐き、答えた。
再び、フクロウは、今度は先ほどより深く差し入れ、内壁を広げるように動かしていく。
そうして、奥を解しながら、片方の手で、カラスの身体を撫でさすり、唇を這わせる。
胸の尖りに吸い付き、舌で転がしてやり、もう片方を摘み上げ、こね回す。
奥の指は増やされ、カラスの感じる場所を強く刺激する。
「あ!あっあっ!」
感じる場所を、同時に攻められ、カラスは堪らず、身を捩り、快感の声を上げる。
「フクロ…あ…や…」
すがるものが欲しくて、フクロウに伸ばした指が、彼の頭を捉え、髪をかき混ぜる。
一括りにされた、フクロウの髪が解け、長い髪が、ばさりと、彼の顔にかかった。
「あ…ぁ…」
フクロウは、構わず、更に指を増やし擦りたて、立ち上がった尖りを軽く噛む。
「あぁぁ!」
カラスの身体は、ビクビクと痙攣し、フクロウの指を痛いほど締め付けてくる。
顔は、真っ赤に染まり、きつい快感に、瞳が濡れていた。
頭を擡げた、彼の性器は、今にも弾けそうだ。
「…カラス」
フクロウは、喉を鳴らし、ゆっくりと指を引き抜くと、カラスの両足を抱え上げた。
自らの性器に、先走りを塗りつけ、先端をゆっくりと窄まりにめり込ませる。
「…っ!」
少しきついが、つかえることなく、根元まで収まった。
内壁が、絡みつくような感覚に陶然となる。
フクロウは、そのまま動きを止め、腕の中のカラスを見遣る。
カラスは目をきつく閉じ、浅い呼吸を繰り返している。
「カラス、動くぞ」
囁くと、薄く目を開け、小さく頷いた。
フクロウは、カラスの腰を支えると、動き始めた。
浅く深く突き入れながら、カラスの性器を握り、梳く。
「あぁー!」
あっという間に、手の中の性器が弾けるが、そのままフクロウは動きを続けた。
「はぁ…ぁ…」
足を更に割り広げ、もっとも感じる部分に先端が当たるように穿つ。
「ひぁっ!…あ…い」
もはや、カラスの中に思考など残っていないだろう。
揺さぶられる身体は、ただただ快感を享受し、悦びに打ち震える。
フクロウは、身を折り、カラスの耳元に囁いた。
「カラス、気持ちいいか?」
無理をさせているといるという自覚は、痛いほどあった。
だから、できるだけ、快感を感じさせてやりたいと思った。
「あ…いぃ…」
カラスは、甘く掠れた声で答えると、フクロウの首に手を伸ばし、かじりつく。
「フクロ…いぃ…!」
耳元で囁かれ、フクロウの背中を、ぞくぞくと快感が昇る。
「…う」
一気に股間に熱が集まり、そのまま放出する。
熱い滾りを受け止めながら、カラスも自身の精を解放した。





カラスを胸に抱き、フクロウはぼんやりと思考を巡らせていた。

「いいよ。お前のしたいようにすれば」

子供の頃、よく聞いた台詞だ。
ユウは、自分が嫌なことは絶対しなかったが、二人して、やりたいことが違ったりすると、よくそう言って譲ってくれた。
さっきも、そうだったんだろう。
やりたいからやるで、カラスが納得してくれているのなら、それでいいのかもしれない。
できれば、自分も、そう割り切った方がいいのだ。

やりたいからやりたい。
お前だからやりたい。

他に理由なんて無い。


えーと、三回目のHなので「THIRD」です(笑) この夏の新刊用の話を考えてるときに思いついたんですが、本当は二回目のHの直後から話考えてたんです。でもなんか妙にダラダラするので、SSなんだし、すぱっとHのとこだけ書くことにしました(爆)(わたしってホントにSS書く目的がはっきりしてるなー(^^;)