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フクロウは一人、自室の寝台に腰を下ろしていた。
つい先ほどまで、戦闘に出ていて戻ってきたところだった。
「…」
シャングリラ遊撃艇との戦闘も、慣れっこになったとはいえ、常に全力で闘っているのだから、身体の負担は大きい。
事実、今も身体は疲れて、休息を訴えている。
いつ起こるかわからない戦闘に備えて、休めるときには休んでおくのは、竜騎兵の鉄則だ。
このまま横になって、少しでも睡眠をとるべきだと、頭では分かっていたが、心は別のことを要求している。
「…ったく、何やってんだ俺は」
口にだすと、ますます侘びしい気持ちになった。

彼が休息しないのは、カラスのせいだった。

カラスと性的な関係を持つようになってから、フクロウは、戦闘後、カラスを抱くことを、常としていた。
いつ戦闘に駆り出されるか、わからない竜騎兵にとって、戦闘直後はもっともプライベートな時間を持てると言って良かった。
また、いつ死ぬかわからない緊張感から解放され、自らと相手の生をもっとも確認したくなる時であり、性行為は、それをもっとも実感できるのだった。
なによりも、戦闘で昂ぶった自身の雄が、その行為を求めるのかもしれない。

今日の戦闘で、カラスはひどく負傷した。
自己再生をかけてはいたが、レイズの消耗は激しく、帰還後、彼の身体は医療班に委ねられたのだ。
カラスは必要ないと言っていたが、コサギが強引に引っ張っていった。
いつ戻ってくるかわからないカラスを、こうして待っているのは我ながら滑稽だとフクロウは自嘲する。
戻ってきても、彼の方から自分のところに来るとは限らないのだ。

いや、来ることはないだろう。

カラスは抱かれることを拒みはしないが、彼がそうしたいわけではないのだ。
自分が求めるから応じるだけで、彼自身それをどう思っているかはわからない。
フクロウ自身、カラスに対する今の自分の気持ちは、どうとらえていいものか持てあましていた。
カラスに対する友情は、昔と少しも変わっていない。
だが、フクロウは、彼を欲望の対象として見ることも覚えてしまった。
それは友情が愛情に変化したわけではなく、二人の立ち位置はそのままに、身体を繋いでいるという、実に奇妙な関係だった。

恋愛感情はない、だが相手に欲情する。

異性相手ならまだしも、同姓相手にそのような感情を覚えるというのはいったいどういうことなのか。
フクロウは、自分が同性愛者ではないと自覚しているが、それならカラスを抱くというのはなぜなのか。

相手がカラスだから。他に答えなどなかった。

実際、彼との行為に於いて、女性にも感じたことが無いほどの、滾りを感じることもしばしばで、フクロウを困惑させた。
それはカラス自身が、生来持つもののせいなのか、フクロウ自身の問題なのか、判別できなかった。
つらつらと、埒もない考えに浸っていたフクロウを、来客を告げる音が現実に引き戻した。 
「フクロウ、俺だ」
聞き間違いようのない、カラスの声にフクロウははっとする。
「カラス?」
慌ててドアロックを解除して、戸口に出迎える。
カラスは、いつものように無表情に佇んでいた。
フクロウが中へと促すと、黙って部屋に入り、寝台との仕切の前で立ち止まった。
「どうした?身体は大丈夫か?」
フクロウが尋ねると、向こうを向いたまま憮然とこぼす。
「別に、大したことはない。コサギが大袈裟なんだ」
その答えに苦笑しながら、フクロウはそうかと返した。
カラスの来訪の目的はなんなのか、フクロウは推し量りかねていた。
カラスが、自分と同じ気持ちであるはずはないと分かっているが、もしやという希望も捨てきれない。
そうでなかったとしても、こうして部屋を訪れてくれるのは、純粋にうれしかった。
「それで、なんだ?カラス」
できるだけ、さりげなく聞く。
カラスは一瞬肩口にこちらを見やり、また向こうを向くと
「ひとりで…寝たくないんだ」
と告げた。

瞬間フクロウの頭は真っ白になった。
が、気が付けばカラスを抱きしめ口付けていた。
「ん…」
カラスは一瞬身をこわばらせたが、力を抜き、おずおずとフクロウの背に手を回す。
フクロウは抱きしめる腕に力を込め、そのまま部屋の仕切にカラスを押しつけるような体勢をとる。
「は…ぁ」
フクロウは、深い口付けを何度も繰り返し、カラスの身体に手を這わせる。
ゆっくりと、背中を撫で下ろし、双丘を掴む。
「!」
フクロウの片手がカラスの股間に伸び、ゆっくりとスーツの上からすりあげる。
カラスは身を引こうとするが、後の仕切のせいで、動きがとれない。
口腔内を執拗に犯されながら、股間を刺激され、カラスは己の性器が形を変えはじめるのを自覚していた。
フクロウを引きはがそうとしても、身体に力が入らない。
カラスはあきらめて、自分の着衣を消した。
服を着たまま追い上げられるのは、さすがに抵抗がある。
カラスが裸になると、フクロウは口付けを解き跪いた。そのまま、カラスの股間に顔を埋める。
「…あっ!」
カラスは足の力が抜けていくのを感じて、慌てて仕切を掴む。
フクロウは、カラスの性器を一度根元までくわえ込み、ゆっくりと刺激する。
舌と歯でで、軽く扱くようにしてやると、瞬く間に硬度を増し、立ち上がる。
口から出すと、それはすでに、透明な雫を零しはじめていた。
こぼれた雫を舌ですくい取るように、茎をなめ上げ、片手で袋を揉んでやる。
「はっ…」
カラスは、必死に両手で仕切を握りしめ、身体を支えている。
もはや足はがくがくと震え、立っているのが困難だった。
「うっ!」
フクロウに、指を奥に突き立てられ、カラスはのけぞった。
フクロウは、溢れだすカラス自身の雫を、たっぷりと指に絡め、奥を探る。
「…っ!」
奥を抜き差しする指の動きにあわせ、フクロウが、口と指を使い、性器を梳き立てる。
「あ!…やぁ…ぁ」
カラスの身体が、大きく跳ね上がり、勢いよく性器が弾けた。
そのまま崩れ落ちそうになるカラスの腰を支えながら、フクロウが立ち上がった。

フクロウは常にないほど興奮していた。
カラスの口から、あんな言葉が聞けるとは思いも寄らなかった。

その歓喜が、普段の彼なら決してしないような行動に駆り立てていた。
目を伏せ、せわしなく呼吸するカラスのまぶたと唇に軽いキスを落とすと、力の抜けた腕を取り、自らの首に回させる。
「しっかり掴まってろ」
そう言うと、腰を落とし、カラスの片足を抱え上げ、すでに堅く立ち上がった自身を、カラスの奥に突き入れた。
「あぁぁ!」
カラスは、力の入らない片足と、仕切に押しつけられた背中だけで、身体を支える無理な体勢が不安で、フクロウにしがみつく。
フクロウとの情事には、大分慣れたつもりだったが、立ったままでの行為など、カラスには思いも寄らないことだった。
だが、そのせいで、いつになくカラスも昂ぶっていた。
「あ…い…ぃ…」
がくがくと、揺すぶられながら、カラスはフクロウの首筋にかじり付き、よがり声を上げる。
掠れた甘い声に耳を擽られ、フクロウの興奮がいっそう募る。
「…くぅ」
カラスの奥が、急速にフクロウを締め上げ限界が近いことを告げる。
フクロウは、もう片足も抱え上げ、思い切りカラスを揺さぶった。
「あーっ!」
ほぼ同時に二人とも達し、荒い息を吐きながら、フクロウはカラスの足をゆっくりと下ろした。
もはや立つことはかなわず、カラスはずるずると仕切づたいに、床に座り込む。
フクロウも、カラスにあわせ床に跪き、カラスの髪に口付けた。
「…フクロウ、水を」
苦しげな息の下で、カラスがそれだけ言う。
「あぁ、わかった」
フクロウは答えると、立ち上がり、すぐ横の貯水漕からコップに水を汲む。
まず、自分で一息に飲み干すと、再びコップを満たす。
カラスに手渡そうと振り向いて、フクロウは息を飲んだ。

しどけなく、床に座り込んだカラスの姿は、余りに扇情的にフクロウの目に写った。

白い肌は、汗ばみうっすら赤みを帯び、口元は薄く開き、荒い呼吸を繰り返している。
下腹には、カラス自身の精が飛び散り、ゆるく立てられた足の付け根から、フクロウが先ほど奥に放った精が床にこぼれ落ちている。
フクロウは、ゆっくりと跪くと、水を口に含んだ。
カラスのあごに手をあて、上向かせると口移しで水を飲ませる。
「!」
いきなりのことで、カラスは驚いてむせる。
「フクロウ!自分で…」
だが最期まで、言うことができず、再び水を飲まされる。
「ん…ぁ」 
コップの水をすべてカラスに飲ませると、フクロウは彼を抱き上げ、寝台に連れて行った。
「フクロウ?」
カラスはあらがう間もなく、組み敷かれ、再びフクロウを受け入れさせられる。
「くっ!」
先ほどまで、突き入れられていたそこは、難なくフクロウを飲み込んでいく。
「フクロウ!」
一晩で、何度もされたことなどなかったカラスは、困惑してフクロウを見つめる。
「お前が悪い」
それだけ言うと、フクロウはカラスの口を塞いだ。
我ながら、ひどい言いがかりだと、フクロウは胸のうちで苦笑したが、カラスが無意識に見せる媚態が、信じられないほど自分を興奮させるのは事実なのだ。
ゆっくりと腰を動かしながら、カラスの感じる場所を刺激していく。
「あぁ…」
再び熱が灯った身体は、あきらめて、快楽に身を委ねていく。
「カラス…」
囁きながら、フクロウは、今日のこの熱は、なかなか収まりそうもないと予感していた。




目を覚ましたカラスは、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。
竜騎兵の部屋は、どれも同じ作りで区別がつかない。
半身を起こそうとして、下半身の重さとあらぬ場所の痛みに驚く。
それで、昨日のことを思い出し、ここはフクロウの部屋だとわかった。
寝台に移ってニ度目までは覚えているが、そのあとは記憶が朦朧としている。

いったいどれほどされたのか、考えたくもない。

起きあがるのはあきらめ、そのまま横になっていると、目の前のドアが開きフクロウが入ってきた。
「カラス!大丈夫か」
なんとも気まずそうな、すまなさそうな表情を浮かべ、フクロウが聞く。
カラスは、なんと答えたものかとしばし考え、あぁと答える。
「そ、そうか…」
そうは言われたものの、気怠げに寝台に横たわっているカラスが、「大丈夫」じゃないのは明らかで、フクロウは罪悪感で胸がいっぱいになる。
初めて、カラスを犯したときと似たような気分だった。
「フクロウ、水をくれないか」
普段より、一層かすれた声でカラスが言う。
「あぁ、わかった」
フクロウはすぐに、貯水槽から水をコップに汲んでくる。
今度はちゃんと、コップをカラスに渡す。
カラスはわずかに半身を起こして受け取ると、ゆっくりとそれを飲み干した。
コップをフクロウに返すと、腕をだらりと落とし、目をつむって言った。
「俺は今日、シャングリラが来ても戦えない、とクイナに言っておいてくれ」
「えぇ!カラス?」
それきり、カラスは眠ってしまったようで規則的な寝息が聞こえるばかりであった。
残されたフクロウは、しばらくシャングリラが来ないようにと、祈ることしかできなかった。


お題「滴る」に描いた絵は、このSSの一場面です(^^;
結構前に書いたやつですが、二人の馴れ初めがわからないとわかりにくい話だなーと思って、UPするの躊躇してました。一応5月の本に馴れ初め書いたので、そっちと併せて読んで頂けるとうれしいです。
フクロウの「お前が悪い」というセリフを、五里さんがえらい気に入ってくれて、一時二人の間で流行ってました(笑)。